5月23日に光明寺で開催された古舘伊知郎さんのお悩み相談トークイベント参加体験をもとに、著書『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』の魅力をレビュー。正解を急がず、悩みを抱えたまま前を向くヒントが得られる一冊です。
5月23日、光明寺で「悩み」と向き合う時間を過ごした
5月23日、古舘伊知郎さんの著書『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』刊行記念トークイベントに参加しました。会場は、東京都港区虎ノ門にある光明寺の本堂。日常の喧騒から少し離れたお寺の空気は、座っているだけで背筋が伸びるような、荘厳で静かな雰囲気に包まれていました。
そこに登場したのが古舘伊知郎です。厳かな空間に、古舘さん特有の軽快な語り口が流れ込む。その組み合わせが、実に面白いものでした。参加者から寄せられる悩みに対して、古舘さんは鋭く、時に笑いを交えながら切り込んでいきます。けれども、その答えは必ずしも「明快な解決策」ではありません。むしろ、悩みが解決したのか、していないのか、よく分からない。それなのに、なぜか会場全体が少しほっこりしていくのです。
この不思議な感覚こそ、『寝ても覚めても煩悩』という本の魅力をもっともよく表しているのではないかと思いました。本書は、悩みに対して一直線に答えを出す本ではありません。悩みを抱えた人の横に座り、「それでもまあ、生きていきましょうか」と言ってくれるような本です。
『寝ても覚めても煩悩』とはどんな本か
『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』は、古舘伊知郎さんによるお悩み相談本です。小学館集英社プロダクションから2026年3月12日に発売され、四六判、368ページ、定価1,980円(税込)の一冊として刊行されています。
本書のもとになっているのは、YouTube「古舘伊知郎の煩悩チャンネル」の人気企画です。視聴者から寄せられた多数の相談の中から、仕事、お金、子育て、恋愛、人間関係、死別、将来不安などの悩みが厳選されています。
| 項目 | 内容 |
| 書名 | 『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』 |
| 著者 | 古舘伊知郎 |
| 発売日 | 2026年3月12日 |
| 発売元 | 小学館集英社プロダクション |
| 仕様 | 四六判・並製・368ページ |
| 定価 | 1,980円(税込) |
| ISBN | 978-4-7968-7470-0 |
| 主な内容 | YouTube「煩悩チャンネル」に寄せられた18の悩みへの回答 |
公式の紹介文では、本書について「喋り屋・古舘伊知郎のノンストップお悩み相談」と説明されています。 その言葉どおり、ページをめくると、まるで古舘さんが目の前でしゃべり続けているようなスピード感があります。一般的な自己啓発書のように、きれいに整理された結論が並んでいるわけではありません。むしろ、話が曲がり、跳ね、脱線し、また戻ってくる。そのライブ感が、本書を単なる人生相談本ではなく、11万字の活字ライブにしています。
「最初に申します。正解はございません」小学館集英社プロダクション公式書籍ページでは、本書の姿勢を象徴する言葉として、この一文が紹介されています。
この「正解はございません」という態度は、イベントで実際に古舘さんの語りを聞いた体験とも重なりました。相談者の悩みに対して、上から答えを与えるのではない。自分も煩悩の中にいる人間として、同じ目線で悩む。そこに、本書の誠実さがあります。
光明寺で体感した「正解を出さない人生相談」の豊かさ
今回のイベントは、「僕もあなたも煩悩 人生のモヤモヤ、“お寺で”いっしょに悩みます」というタイトルで開催されました。公式告知によれば、会場は光明寺本堂で、当日の参加者から相談内容を直接募集する参加型のトークイベントでした。
興味深いのは、イベント告知の段階から、主催側が「正解を提示する場ではありません」と明記していたことです。 普通の人生相談イベントであれば、「悩みを解決します」「答えを出します」と打ち出したくなるはずです。けれども、このイベントはそうではありませんでした。
| 一般的な人生相談の期待 | 古舘伊知郎さんの人生相談で感じたもの |
| 正しい答えがほしい | 答えよりも視点がほしい |
| すぐに悩みを消したい | 悩みとの距離を少し変えたい |
| 専門家に判断してほしい | 一緒に笑いながら考えてほしい |
| 迷いを終わらせたい | 迷いを抱えたまま歩き出したい |
光明寺という場も、このイベントの意味を深めていました。仏教の歴史や教義について、私自身が詳しく理解しているわけではありません。それでも、お寺という場所に身を置きながら「煩悩」について語る時間には、自然と仏教的な受け止め方がにじんでいたように感じます。
煩悩は、ただ消し去るべき悪者ではない。人間が生きている限り、迷い、欲しがり、比べ、後悔し、また考えてしまう。そうしたどうしようもなさを、古舘さんは笑いに変えながらも、決して軽く扱いません。軽快なのに雑ではない。ふざけているようで、実は深い。その説得力は、理論だけではなく、古舘伊知郎という人物の厚みそのものから生まれているように思いました。
この本の魅力は「解決」よりも「視界がひらける」こと
『寝ても覚めても煩悩』に収録されている悩みは、どれも身近です。「人に催促することが苦手」「タバコをやめられない」「人の顔色を見て仕事をしてしまう」「賃貸と住宅購入のどちらがよいか」「亡くなった親に会いたい」「29歳フリーターで何者かになりたい」など、目次を見るだけでも、現代を生きる人のモヤモヤが幅広く拾われていることが分かります。
そして、それぞれの相談に対する回答が、いちいち古舘さんらしいのです。たとえば、人に催促することが苦手だという相談には、「人生というものは、すべて締め切りです」という言葉が返ってきます。 人の顔色をうかがってしまう悩みには、「心に2台のカメラを設置して実況中継を」という独特の発想が示されます。
これらの言葉は、単なる名言風のフレーズではありません。古舘さんがアナウンサーとして、実況者として、キャスターとして、長年「見る」「聞く」「伝える」ことに向き合ってきた人生から出てきた言葉です。だからこそ、少し変化球のように見えても、妙に腹落ちします。
特に印象的だったのは、現代社会には「行き先案内表示」が多すぎるという感覚です。私たちは毎日、効率的な生き方、正しい選択、損をしない方法、失敗しないキャリア、後悔しない買い物、最短で成果を出す手段に囲まれています。スマートフォンを開けば、次に何を見るべきか、何を買うべきか、どこへ行くべきかまで案内されます。
もちろん、案内表示は便利です。しかし、人生そのものにまで案内表示を求めすぎると、私たちは「正しい方向に進んでいるか」ばかりを気にするようになります。その結果、自分の迷いや寄り道や遠回りを、すべて失敗のように感じてしまうのではないでしょうか。
『寝ても覚めても煩悩』が面白いのは、その過剰な案内表示から少し離れさせてくれるところです。本書は「こちらが正解です」と矢印を出す本ではありません。むしろ、「そもそも正解の矢印ばかり見ているから苦しいんじゃないですか」と問いかけてくる本です。
古舘伊知郎の言葉は、なぜ軽いのに深く届くのか
古舘伊知郎さんは、1977年にテレビ朝日へ入社し、プロレス中継で独自の語り口を確立しました。その後、フリー転身を経て、F1中継、バラエティ番組、『報道ステーション』のメインキャスターなど、ジャンルを横断して活躍してきました。
この経歴だけを見ると、「話のプロ」「言葉の達人」という印象が先に立ちます。もちろん、それは間違いありません。しかし、今回のイベントと本書を通して感じたのは、古舘さんの魅力は単に話がうまいことではない、ということです。
本当の魅力は、言葉の奥にある迷いの量です。古舘さんは、自分が迷わない人間だから相談に答えているのではありません。むしろ、自分自身も迷い、失敗し、後悔し、煩悩を抱えている。そのことを隠さずに語るから、聞き手は安心するのです。
PR TIMESの発売告知では、本書の「はじめに」から、古舘さん自身が70歳を越えても迷い続けていると語る趣旨の文章が紹介されています。 その率直さが、本書全体の信頼感につながっています。人生を達観した人が答えを授けるのではなく、迷いのただ中にいる人が、それでも言葉を尽くしてくれる。だからこそ、読者は「自分だけがこんなに悩んでいるわけではない」と思えるのです。
『寝ても覚めても煩悩』はどんな人におすすめか
この本は、明確なノウハウや即効性のある解決策を求めている人には、少し遠回りに感じられるかもしれません。けれども、人生の悩みというものは、そもそも一問一答で片づくものばかりではありません。だからこそ、本書は次のような人に特におすすめです。
| おすすめしたい人 | 理由 |
| 仕事や人間関係でモヤモヤしている人 | 催促、人の顔色、義理の家族など、日常的な悩みが多く扱われているためです。 |
| 自己啓発書の「正解」に疲れた人 | 本書は正解を断言するより、悩み方そのものをほぐしてくれる本だからです。 |
| 古舘伊知郎さんの語りが好きな人 | 11万字の活字ライブとして、古舘節の勢いを文章で楽しめます。 |
| 親子関係や死別など、簡単に答えが出ない悩みを抱える人 | 重いテーマにも、説教ではなく同じ目線で向き合っているためです。 |
| 笑いながら少し前を向きたい人 | 深刻な悩みを、深刻なまま固定しない軽やかさがあります。 |
読後にすべての悩みが消えるわけではありません。けれども、悩みを抱える自分を少し許せるようになる。悩みを解決できない日があっても、「まあ、それでも歩いていくか」と思える。その意味で、本書は現代人にとってかなり実用的な一冊だと思います。
まとめ:答えがなくても、人は少し前を向ける
光明寺でのトークイベントを終えて、私は不思議な満足感を抱いていました。悩みが解決したのかと問われれば、正直よく分かりません。けれども、参加者の悩みに古舘さんが軽快に、時に真剣に、時に脱線しながら向き合う時間には、確かに心をほぐす力がありました。
『寝ても覚めても煩悩』の魅力も、まさにそこにあります。本書は、人生のモヤモヤに対して、きれいな結論を出す本ではありません。煩悩を抱えたまま、迷いながら、笑いながら、それでも生きていくための本です。
現代社会には、あまりにも多くの「行き先案内表示」があります。どこへ行けばいいか、何を選べばいいか、どうすれば失敗しないか。その答えを探し続けるうちに、私たちは自分の足で迷う力を失っているのかもしれません。
だからこそ、古舘伊知郎さんの言葉が響きます。明確な回答がなくても、前を向いて歩き出せることがある。悩みは消えなくても、悩みとの付き合い方は変えられる。『寝ても覚めても煩悩』は、そんな当たり前で、けれど忘れがちなことを思い出させてくれる一冊です。
古舘伊知郎さんの生き様を通して、生きるヒントを少し受け取る。そういう読書体験を求めている人には、ぜひ手に取ってほしい本です。
参考文献
[1] 小学館集英社プロダクション『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』公式書籍ページ
[2] PR TIMES『古舘伊知郎・YouTube企画が待望の書籍化!』

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