はじめに
第70回江戸川乱歩賞受賞作『フェイク・マッスル』を読み終えました。普段から格闘技とミステリーの両方が好きな自分にとって、この組み合わせの作品に出会えたことがまず嬉しかったです。読み終えた今、率直な感想とレビューをまとめておきたいと思います。
結論からいうと「テンポの良さで一気読みできる、でも読後にじわっと効いてくる作品」でした。それでは詳しく見ていきます。
『フェイク・マッスル』基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 著者 | 日野瑛太郎(ひの・えいたろう) |
| 受賞 | 第70回江戸川乱歩賞 |
| 出版社 | 講談社 |
| ページ数 | 304ページ |
著者の日野瑛太郎さんは1985年茨城県生まれ、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了という経歴の持ち主です。江戸川乱歩賞の最終候補に3回連続で残った後、4回目の挑戦である本作で満を持して受賞、デビューを果たしています。
選考委員からも、東野圭吾氏が独自の世界で勝負できる書き手だと評価し、辻村深月氏がエンタメとしてのテンポの良さを称賛するなど、ベテラン作家陣からの評価も高い一作です。
あらすじ:アイドルの「フェイク疑惑」を追う潜入取材
物語の発端はシンプルかつキャッチーです。人気アイドルの大峰颯太が、わずか3ヵ月のトレーニングでボディービル大会の上位入賞を果たします。当然SNSは騒然となり、「そんな短期間でその筋肉ができるわけがない」「ドーピングではないか」という疑惑が炎上状態に。
大峰本人は疑惑を完全否定し、それどころか騒動を逆手に取るように「会いに行けるパーソナルジム」を六本木にオープンさせるという挑戦的な行動に出ます。
そこに送り込まれるのが、文芸編集者を志しながら週刊誌記者になった新人・松村健太郎です。潜入取材としてジムに入会した松村は、ベテラン会員・馬場智則の力を借りながら大峰の個人指導を受けるまでに食い込み、ついに一対一の対決の場を手にします。あの筋肉は本物か、フェイクか。真実を確かめるための大胆な一手が、物語を加速させていきます。
格闘技好きとして刺さったポイント:「ナチュラル」の神聖さ
格闘技や筋トレに親しんでいる人間として、この作品が一番刺さったのは「ナチュラルであること」の扱い方でした。
トレーニングの世界では、薬物に頼らず鍛え上げた身体を「ナチュラル」と呼びます。この物語は、ナチュラルかどうかという一点を軸に、信頼と裏切り、努力と近道というテーマを丁寧に転がしていきます。読みながら感じたのは、着実に積み上げてきたものにこそ宿る力の尊さです。一発逆転や近道では決して得られない説得力が、トレーニングを描く描写の端々に滲んでいました。
筋トレ未経験の読者でも入りやすい筆致ながら、トレーニングを実際にしている人間が読むと「わかる」と頷きたくなる瞬間が多く、そのバランス感覚に著者の取材力を感じます。
ミステリーとしての評価:疾走感は満点、トリックは賛否ありそう
ミステリー好きとして注目したのは、何よりも物語のテンポです。潜入取材というサスペンス要素と、ドーピング疑惑というフェイク性をめぐる謎が同時進行することで、ページを止める隙を与えてくれません。読み始めたら最後まで一気にいけるタイプの疾走感がある作品です。
一方で、核心となるトリックの納得感については、自分の中では「うーん」という感覚が残りました。仕掛け自体の発想は面白いのですが、伏線の張り方や検証の過程にもう一段の緻密さがあれば、より深い満足感が得られたかもしれません。とはいえ、これは謎解きそのものへの評価であり、物語全体のエンターテインメント性を損なうほどのものではありません。テンポの良さと人物描写の温度感で、トリックの粗を感じさせない構成力があると感じました。
読後感:一気読みの爽快感とじんわり残る余韻
読み終えた直後の感想は「楽しかった」というシンプルな一言に尽きます。社会派的なテーマを扱いながらも、文体は重すぎず、人物同士のやり取りには人間らしい温度があります。一気読みできる軽快さと、努力の尊さを噛みしめる余韻が同時に残る、バランスの良い読書体験でした。
格闘技とミステリーという、普段別々に消費している二つの趣味が一つの作品の中で噛み合う体験はなかなか貴重です。同じ組み合わせが好きな方には、迷わずおすすめできる一冊です。
まとめ
- ・第70回江戸川乱歩賞受賞、日野瑛太郎氏のデビュー作
- ・アイドルのドーピング疑惑を追う潜入取材ミステリー
- ・「ナチュラル」というテーマに宿る、積み上げた努力の尊さが魅力
- ・テンポと疾走感は抜群、トリックの納得感はやや賛否あり
- ・一気読みできて読後感も良い、格闘技好き&ミステリー好きにおすすめ

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