【書評】『早稲田ラグビー最強のプロセス』相良南海夫監督が語る「継承と創造」の真髄|11年ぶり日本一への軌跡

スポーツ

【この記事のポイント】

  • ・相良南海夫監督がチームに見出した「スタンダードの欠如」とその処方箋
  • ・「早稲田スタンダード」5つの鉄則——技術以前の「執着心」の言語化
  • ・100年の伝統を守る「継承」と最新ラグビーを融合する「創造」の具体的な形
  • ・早明戦完敗から国立での歓喜へ——たった40日間の劇的な逆転劇

大学選手権で優勝した時だけに歌うことが許される第二部歌「荒ぶる」が11年ぶりに国立競技場に響き渡った——その感慨深さは今でも鮮明に思い出せる大学ラグビーファンも多いと思う。

今回紹介するのは、低迷していた早稲田大学ラグビー部を立て直し11年ぶりの日本一奪還を果たした相良南海夫監督の著書『早稲田ラグビー最強のプロセス』だ。混迷していたチームをいかにして立て直したのか、その軌跡を辿る。


間違った方向に進んでいたチームと学生

前任の山下大吾に率いられた早稲田ラグビー部は結果が伴わなかった。相良は傍から見て、その要因が「スタンダードの欠如」にあると感じていた。ディフェンスは淡泊で粘り強さがない。イーブンボールへの反応が悪い。ボールキャリーへのサポートが遅い。これらは早稲田に代々受け継がれてきたスタンダードのはずだった。

相良は自分の役割をこう捉えていた。「ラグビーは日進月歩。私には最新式は教えられない。ただ、ラグビーの『普遍的なもの』は教えられる」

早稲田100周年というシンボリックな年に、往年の大学ラグビーファンしか知らないような地味な存在に監督として声がかかった意味は、まさにそこにある。


「早稲田スタンダード」の徹底

2018年4月から上井草のグラウンドに立った相良が、まず取り組んだのが「早稲田スタンダード」の徹底だった。

早稲田スタンダード5つの鉄則

膝に手をつかない ——キツいときに顔を下に向けない。相手に弱さを見せない。

ゴールラインを全力で切る ——フィットネスでも最後まで手を抜かない。

トライまでサポートを継続 ——「トライだ」と思っても、グラウンディングの瞬間まで緩めない。

最後まで諦めないバッキングアップ ——抜かれても追い続け、コンバージョンの難易度を上げる。

イーブンボールへの執着 ——相手に「ミスは許されない」という無言のプレッシャーをかける。

当たり前に映るかもしれない。でもこの当たり前を、早稲田の歴史の中で諸先輩方が大切に積み上げてきた。これこそが普遍的な早稲田スタンダードだ。


継承と創造——オール早稲田の力

「早稲田スタンダード」や「ポジ練(ポジション別練習)」のように、先人たちが100年かけて積み上げてきたものを守るのが「継承」。そこに時代に応じた新しいものを加えていくのが「創造」だ。

最近の流行ラグビーについてはコーチ陣の方が詳しいので任せた。最先端のラグビーを知るOBたちが指導に来てくれ、相良自身も学ばせてもらった。まさにオール早稲田だ。

相良が教えられるのは普遍的なラグビー、「継承」の部分。「全ては上井草にあり」——日々突き詰めて練習するグラウンドから、すべてが創り出される。

継承(守るもの)創造(加えるもの)
早稲田スタンダード最新戦術・フィジカル理論
ポジション別練習(ポジ練)最先端ラグビーを知るOBの知見
低さ・自主性・執着心データ分析・映像活用
100年の精神的土台現代の強豪チームの方法論

完敗から学んだ「勝ちポジ」と「トツ」

齋藤直人を新キャプテンに据え、相良の就任2年目のシーズンが始まった。プレーの細かいキーワードは「勝ちポジ」と「トツ」。

  • 勝ちポジ: 勝てるポジション——体を前傾させ、目線を上げて前に出る準備
  • トツ: 倒れてもすぐ立って動き続けること

全勝で優勝がかかった早明戦を迎えたが、スコアは7-36。完全に明治の圧を受けて完敗した。

しかしショックはそれほどなかった。「ディフェンスなど、自分たちがやらなければならないことをやらずして負けた。これは修正がきく」——相良はそう思っていた。

選手たちにこう問いかけた。「自分たちの立ち位置が分かってよかったじゃないか。この差を埋めるのか、埋めないのか。どうするんだ」


国立競技場での歓喜——「荒ぶる」の合唱

決勝。早明決戦。初の国立競技場。決勝進出は6年ぶりだった。

ロッカールームで相良は最後の檄を飛ばした。「今日は自分たちのやってきたこと、早稲田クォリティーをやり切ろう。フォワード、セットでボールを取って近場でバトルして来い。バックスはタックルして、フォワードが取ったボールを仕留めて来い。攻めて、攻めて、攻めていこう。全員で闘え」

前半は4トライを奪い31-0と大差をつけた。自分たちの力を100%出せた。後半、明治の猛追を受けるも踏ん張り、ダメ押しのトライで45-35の勝利。

何も出来なかった対抗戦での完敗から40日——結果を真逆にすることができた。みんなの前で「荒ぶる」を合唱できたことは何よりだった。

相良はこう締めくくっている。「早稲田は優勝を続けられるチームでなければならない。そのために今以上の文化を育て、プレーのクォリティーを上げていかないといけない。早稲田の挑戦はこれからだ」


まとめ:普遍的なものへの回帰が、最強のプロセスだった

この本を読んで、強さの本質は派手な戦術革新じゃなく、当たり前を当たり前にやり切る力にあると改めて思った。相良監督は「最新式は教えられない」と言い切った上で、100年分の知恵を丁寧に掘り起こし、それを現代に融合させた。

ラグビーを知らなくても、チームマネジメントや組織論として読み応えのある一冊だ。大学ラグビーファンなら絶対に手に取ってほしい。


よくある質問(FAQ)

Q. 早稲田ラグビーの「荒ぶる」とは?
大学選手権で優勝した時にのみ歌うことが許される第二部歌です。

Q. 相良監督が重視した「早稲田スタンダード」とは?
膝に手をつかない、最後までサポートを続けるなど、技術以前の「執着心」を言語化した5つの行動指針です。

Q. 「継承と創造」の具体的な内容は?
100年の伝統(低さ・自主性・スタンダード)を「継承」しつつ、最先端のコーチング理論を「創造」として取り入れるハイブリッドなチーム作りのことです。

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